外来での徒然

運転がしたいんじゃぁ

トルソー(Trousseau)症候群という病態があります。

癌などの悪性腫瘍があると、血液は凝固亢進に傾きます。
つまり血液が固まりやすくなります。小さな血液の塊り(血栓)が脳の血管に飛ぶと脳梗塞をおこします。
血栓が脳の血管に飛んでしまったとき、MRIの画像、症状、年齢などから血栓回収と言ってカテーテルで血栓を取り除くこともあります

〇外来での徒然

ウエダマさん。

80代男性、肺がんの治療中でした。
ある時、トルソー症候群によってできた血栓が脳の血管を閉塞させました。
時間的に余裕があることなどから血栓回収術を行いました。幸い血管は再開通しました。
血栓回収後は認知機能検査HDS-Rでは22点(認知症疑いギリギリレベル)、麻痺などもほぼ改善し自宅退院となりました。

退院後の外来で診察室に入ってくるなり

ウエダマさん「先生、運転がしたいんじゃ。」
家族が後ろで全力で首を振って手を×にしています

わたし「脳卒中ドライバーの評価では合格できていないから危ないよ」

ウエダマさん「スーパーまで車で15分かかるし妻は免許ないし運転がしたいんじゃぁ」

家族「脳梗塞になる前から何度か事故を起こしていますし、私たち隣の家に住んでいるのでスーパーまで連れていけます。先生説得してください」

外来で30分以上話した結果。

説得できませんでした。
とりあえず再度脳卒中ドライバーの評価を受けて考えよう、それでだめならあきらめようと伝え運転を開始するのを先延ばしにしました。


家族は「絶対受からないですよね!!」って言ってたけどどうだろう、ぎりぎりかもしれない。

・脳梗塞を起こすと、認知機能が低下することも多いです。高齢の方は、入院し環境が変わるだけでも認知機能は下がります。
・患者さんと家族の希望が食い違う場合は決定を先延ばしにすることが正解、ということが多々あります。
・田舎だと運転できないのは非常に不便です。早く完全自動運転の車が実用化するといいなぁと思います。