外来での徒然

職人が寡黙という嘘

 60代男性、肺がん脳転移疑いで紹介となったニジさん。画像上は側脳室内の腫瘤性病変で転移ではなさそうで画像フォローを行っています。

 ニジさんは漆器職人さんで外来にはご夫婦でこられます。

 画像の結果を説明して「何か質問などありますか」といつものように聞くと

ニジさんの奥さんが
「うちの人、3回も4回もおんなじ話しするの、認知症とかじゃないですか」と。

ニジさんは自分の病状に対する理解も良好です。
認知症とは全く思わなかったので意外でした。

「3回も4回も同じ話するのは最近ですか、ずっと前からですか」と聞くと

奥様は
「だいぶ前から、時々かなぁ」と答えました。
”そんな印象ないけどなぁ”と私が考えているとニジさんはいいました

「職人は、狭い世界で仕事してる。家内も仕事を手伝ってる。病院にも家内がきて。四六時中一緒にいるんだわ。話す内容も限られてくる、家内が喜んだり笑ったりしてくれた話を何度かすることもあるわ」

おおーー、そういうことですか。一件落着一件落着。
なんとなく二人笑顔になってるようでした。

帰り際ニジさんは言いました。

「先生、一応いっとくけど、職人が寡黙ってあれ嘘やぞ」