外来での徒然

外来での徒然32 巻き返しの勝虫とんぼのお話

 脳動脈瘤というものがあります。脳の動脈の一部分がコブのように膨らんでいることを指します。これが破裂するとくも膜下という場所に出血します。
 くも膜下出血は、大体3人に1人は亡くなります。また社会復帰できるまで回復する方も3人に1人です。
 破裂率は場所、大きさ、形などで大体わかっており、手術リスクのほうが高い場合は通常経過観察します。経過で大きくなったり形が変わったりした場合は手術が検討されます。

 今回は脳動脈瘤に対してFlow diverter stentを留置した方です。Flow diverter stentは血管においてもすぐに動脈瘤が消えるわけではないので、外来での経過観察が必要です。

 未破裂瘤をいくつかみとめ、Flow diverter stentをおいたカメさん、70代女性です。

手術後の画像フォローのため外来に来られました。

画像の説明をしたあとのことです。

カメさん「先生、これあげるわ」

わたし「これはなんですか?」

カメさん「え?これしらない?勝虫とんぼよ。勝虫トンボ。ワイヤーアート。ならったのよ、先生の外来の患者さんにあげてね」

わたし「いや、あの・・・・ありがとうございます」

カメさん「巻き返しよ、巻き返し。いつまでも前向いていくんよ」


勝虫とんぼ 2箱分ほどわたされました。

*とんぼは後ろにはすすまず、前にしか進まないことから【前進あるのみ】として「勝虫」と呼ばれており、前田利家の兜にもあります。

勝虫のワイヤーアートはyahoo newsにもなっていたんですね。全く知りませんでした。

金沢から被災地へ「勝虫・トンボ」10000匹以上! 大病を乗り越えた制作者の思いhttps://news.yahoo.co.jp/expert/articles/318392687ebf2a64f48ebfa592661416f1fe01ce

人は一人では生きていけません。誰かの心が少しでも幸せになるようにと願って何かをするというのは本当に素晴らしいことだと思いました。

自分が苦しんでいるとき、辛いとき、自分を愛する周りの人はそっと手を差し伸べてくれていたはずです。自分自身は気づいていなかったのかもしれませんが多数の手助けがあって今の自分がいるのです。
自分は助けてもらいながら、周りに苦しんでいる人がいるときに手を差し伸べないのは、傲慢で恩知らずです。

ただ【言うは易し行うは難し】。常に聖人のようには生きていけないものです。気を付けて人生を送らないといけません

恩には恩を、倍返しだ!!